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ある意味紹介本より面白い

「第2図書係補佐」
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又吉直樹/著

コラム的な短文が好きだ。
コラムやエッセイで慣れ親しんだ作家は、大抵独自の「くすぐり」と笑いのツボを持っていて、そのくすぐられる感じが心地よく、気分転換にはもってこいだ。
又吉のコラムも同じく、その語り口がもう「くすぐり」に満ちている。
言葉の使い方そのものが、すでにくすぐっている。

「第2図書係補佐」は、開いてすぐの「はじめに」から涙腺にきた。
誰でもそう感じるとは決して思わないが、
気持ちの琴線に触れる文章とはこのようなものではないか。

彼がものを書く作家に、それをプロとして批評する人々に、どのような生きざまを感じ、望んでいるかが喉から手づかみで引き出されたように書かれる。
その言葉が卑屈や謙虚さを装っているのではないことは本文を読めばわかる。
ある意味真っ向からベタな前書きだが、まじめなベタを書いて泣かせる人などそういないだろう。

短い「はじめに」を読むと、劇場に置かれたフリーペーパー、そこに集まる人々の熱気、分け合った菓子パンの悲しさと美味さ、「生活の傍らに常に本という存在」がボソッとした彼の語り口調と少し前かがみな立ち姿まで思い起こさせる。彼が「芸人」としてテレビの画面に映っている、その場面までぼよよんと立ち上る。着物姿の彼ではなく、ネタを披露している彼だ。

本を枕に自らを語る、まさにそういったコラムの数々。
この込み入ったアイロニー。

孤独と空腹を満たす読書。
心も体も乾いている中に注ぎ込まれた作家の魂は濃度をもって彼の中に浸透しただろう。

「昔日の客」の中で、古本屋めぐりの話を彼はこう書く。

「気になる本は手に取り裏の紹介文を読み、帯文を読み、ページを開く。するとそこに宇宙が現れる。」

本文より

少ない手持ちのお金で本を選ぶ時の、本棚いっぱいに詰まった本のタイトルを前にした時の、切ない欲望が蘇る。
彼もまた、本は借りずに買って読む人なのだろう。
それは金銭感覚とは別のところにあるものだ。
私も今でこそ図書館を利用するが、かつて「借りる程度の本なら読まなくてもいい」とさえ思っていた頃があった。
読み進むと、これはほとんど青春小説に思える。
又吉直樹が描いた、彼自身の。

西加奈子の「炎上する君」、パトリック・ジュースキントの「香水 ある人殺しの物語」、「人間コク宝」なんて本当に笑える。笑えるが鋭い。彼の心のつぶやきが奇妙奇天烈だ。
「人間コク宝」のサッカー部の男子の話なんて、いるいる、こんな奴、である。

中二病の胸の奥に潜むガラスを割った凶器のような鋭さを見せるかと思えば、子供に寄せる温かな目線、サッカー少年であった意外な一面、祖父母の故郷、自らのルーツを書く。
本そのものの紹介はほとんどなく、それが却って読みたい気持ちを増幅させる。
バラエティーの豊かさは意外なほどである。

「ヴィヨンの妻」では又吉と太宰治の奇妙な縁(えにし)が綴られる。テレビでこのあたりの逸話を語る彼の話を聞いてはいたが、「自意識過剰」と呼ぶにはあまりに「何か」を感じさせる偶然にやはり鳥肌が立つ。
私の亡くなった父は、あの斜めな横顔が太宰と瓜二つだった。
初めて太宰の本を文庫で読んだ時、その写真に「これ、お父さんじゃないの?」と本気で疑ったほどだった。精神科の医者だった父は、仕事に向いていなかったのか若くして自らアルコールに溺れるようにして亡くなった。父はお酒を飲みに行っても、必ず母によく似た女性にお酌をさせたそうである。不器用な父は、彼なりに妻である母を愛していたのだと今ならわかる。あんなに太宰を繰り返し読んだ高校時代、太宰の描く男たちの中に父の不運と不幸をなぞらえながら、誰からも理解されなかった父を私くらいはわかってあげたいと思っていたのかもしれない。
理系頭の構造も、容姿も性格も身体が丈夫でないところまで父に似ていると家族に半ば嫌悪されて育ったと思う。
ところが幸いなことにアルコールは体が受け付けず、繊細でありたくともゴリオ(仮名)にすっかり鍛えられ、人生に疲れるには世の中が面白すぎる時代に生まれてしまった。
体脂肪は多いが肝機能は勿論、内臓はめっぽう良い状態を保って父が亡くなった年齢をとっくに超えた。

さてこんなことまで書いてしまうほど、
又吉の引き出しの多さに、こちらの感傷まで引き出される、といった具合である。

対談もあり、本編だけでも楽しめる。
これ、大好きな一冊だ。


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Comments 3

yuccalina  
1

こんにちは。私もこれ大好きなんです。実際読んだことがある本は僅かだったんですが、自身の体験談と本の内容をシンクロさせるのが凄く上手なんだなあと思いました。

私は又吉かつてアメトークで「面白くない本なんかない、その時の自分が面白いと思えなかっただけ」とか言ってたのが心に残っていて、それをそのまんま音楽を聴くときになぞっています。

2016/08/05 (Fri) 10:25 | EDIT | REPLY |   
mikaidou  
Re: 1

yuccalinaさま

こんにちは(*´▽`*)
コメントありがとうございます。

> 私は又吉かつてアメトークで「面白くない本なんかない、その時の自分が面白いと思えなかっただけ」とか言ってたのが心に残っていて、それをそのまんま音楽を聴くときになぞっています。


ああっ!
私先ほどyuccalinaさまのブログを読ませて頂きながらyoutubeを聞いていて、「あの時代、こんなに良い音楽があったのに、何で気が付かなかったんだろう~~!」と思ったばかりだったんです。
ほんと、音楽にも同じことが言えますよね。

今、次の「夜を乗り越える」を読みながら、また涙腺をやられております。
やられたわー、という快感がすごいです。

2016/08/05 (Fri) 18:47 | EDIT | REPLY |   
mikaidou  
Re: 05

鍵コメさま

コメントありがとうございます。
不思議なご縁ですね。
子どもは本当にありがたい存在ですよね。

2016/08/06 (Sat) 21:57 | EDIT | REPLY |   

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