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東京物語

先日お亡くなりになられた原節子の代表作ということで、『東京物語』が放送されたので、録画しておいた。



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尾道の小さな港の湾沿いに並ぶ瓦葺の屋根。
蒸気機関車の吐く黒い煙。

戦後の復興と共に失われた家族の在り方の欠片が散らばる。

どこまでも善良で、
「私らは幸せですよ」と語り合う老夫婦。

田舎から東京まではるばる子ども達に会いに来た両親に、冷たい実の子ども達とは違って、血の繋がらない義理の娘の紀子(原節子)が一番優しかったという、ただそれだけの話なのだが。


老夫婦(笠智衆 、東山千栄子)が20年ぶりに訪れた東京は、トンチントンチンと、
お囃子や流行歌がどこかから聞こえてくるような街。

そこに住む長男は医者(山村聰)、長女(杉村春子)は美容室の経営者となっている。

そして戦死した次男の嫁が原節子。

全ては笠智衆 、東山千栄子のやわらかな物腰、善良で優しい姿に集約される。
彼ら無しに、この映画は成り立たなかったと感じる。

特筆すべきは杉村春子。
さすがというしかない。

俳優座と文学座の劇団所属の俳優に、子役は劇団ちどり、劇団若草から。
劇団によって、演技スタイルが違っていたのかもしれないが。

長兄の家に滞在する両親を訪れた時の杉村扮する長女「志げ」が見せる、
都会に根を下ろした中年女の自然な立ち姿。
慣れない老祖父母にどう接して良いかわからぬ(1950年代当時の)現代っ子を彼らの元に連れて行き、挨拶を促す貫禄。
家でのだらしなく膝を開いた座り姿。
両親に持っていく土産を2度とも「煎餅でいいのよ。」と自分もぼりぼり貪るように食う表情。
そして母を亡くした直後に泣く姿の翌朝には、ケロッと自分の現実に立ち返っている食事時の所作。

どのシーンもカメラの存在を感じさせない。
最も人間臭く、最も都会ずれした、商売に長けた中年の女。

医者のはずだが、どこか浮世離れした長兄の山村聰とは対照的だ。

戦争未亡人の原節子と、笠智衆 、東山千栄子演ずる老夫婦のふれあいに心和む。


長男の家では、子ども達がおじいさんおばあさんである老夫婦になつかず、上の孫は祖父母のために勉強部屋を明け渡すことに不満を持っている。
仕方なく勉強部屋ではなく、父親の診察室の机で勉強する孫は、何故かこれみよがしに英語を勉強している。
学生服でもなく、キャップ帽をかぶった姿はあどけないが、中学生らしい。

教科書には「NEW TSUDA READERS」と書いてある。
津田塾?何故?と思って調べてみた。
CiNiiによれば、これは実在した教科書で、「New Tsuda readers [津田塾大学編修部著]Sanseido, 1948-1950」とある。
「昭和23年8月26日文部省検定済教科書中学校外国語科用」と書誌情報にあるので、どこの中学校でも使われていたものだろうか。
この映画が1953年の作であることを思えば、英語で「冷たい冬は終わり、春がやってきた」と読むあどけない中学生は、父のあとを継ぐべき、新しい長男の姿だったのかもしれない。
これをGHQ政策の一つと捉えるか、新しい時代の萌芽と見るべきかは、意見の分かれるところか。

長男、長女の家で其々居心地の悪い思いをし、海辺の町からやってきたのに熱海(だったと思う)に追いやられる。
東京に戻っても実の娘は冷たく、その中で父は旧友と再会を果たし、母は義理の娘が一人暮らすアパートに泊めてもらい、安らぎを見出す。

だが、帰路の途中から、母親は体調不良を訴える。

あっけなく母は亡くなり、葬儀の後の家族がまたリアルに描かれていく。

笠智衆のぼうっとした立ち姿は、長年連れ添った妻を亡くした男を表現するに、これ以上のものがあるかと思わせるものだった。
あんなにさりげないのに。

東京で母危篤の知らせを受け、喪服の相談をする長男長女の会話は身につまされた。

義理の娘の原節子と、老夫婦が同居している次女の香川京子の二人の頭には、喪服の準備のことなど毛頭もなかった。

人一人が亡くなる、その周辺では、時に箍が外れたように様々なことが噴出する。

人間の本性、本音が一番浮かび上がるのが、人の危篤から臨終の時なのではないか。

私は自分も経験した細やかな幸せや、裏切られた不幸を思いながら、舅姑の姿が目に浮かんだ。

葬儀の翌朝の食事の場面で、カメラの正面、今ならお誕生席と呼ばれる中央に座っているのは長男である。
本来なら家長はやはり老父ではないかと思ったが、跡継ぎとして、実権は父から長兄に移っているのかと思わせる場面だった。
家の中ですら、席順からその人の立場がわかるなんて、今はもうほとんど見られない光景かもしれない。

何でもない光景なのに、涙が流れて止まらなかった。

この何でもなさが、この映画の真骨頂なのだろう。
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Comments 2

kei  
1

「東京物語」のTV放映があったんですか。知りませんでした。
一度観てるし、観たいならDVD借りてくればいいだけなんですが。

最新のキネマ旬報のオールタイムベストの第一位。それまでは「七人の侍」でしたが。

ストーリーを読みながら、ふと思ったんですが、この映画の素材に「リア王」があったんじゃないですかね。

2015/12/30 (Wed) 11:45 | EDIT | REPLY |   
mikaidou  
Re: 1

keiさま


> ストーリーを読みながら、ふと思ったんですが、この映画の素材に「リア王」があったんじゃないですかね。


wikiに飛んでよく読んでみると、
家族の相関関係になるほどなあ、と思いました。
テーマに普遍性があるのかもしれませんね。

それにしても、あの物語に『東京物語』と敢えて付けたところがミソでしょうか。

紀子三部作、というそうですが、『晩春』『麦秋』も見てみたいなあ、と思ってしまいました。

2015/12/30 (Wed) 15:22 | EDIT | REPLY |   

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