FC2ブログ
Welcome to my blog

唐獅子源氏と恵方巻

こんな記事が上がっていた。
http://www.nippon.com/ja/features/h00097/

「恵方巻」ブームと日本の伝統的食文化の危機
節分になると全国のスーパー、コンビニで大々的に売り出される「恵方巻」。このブームは伝統食の普及なのか、それとも伝統の破壊なのか。

何が「大阪の伝統的風習」やねん!!!

——私たちが紫色の絨毯(じゅうたん)を敷きつめた書斎に通された時、女中が現れて、「少々お待ちください」と言った。
「いま、皆さんで巻き寿司(ずし)を食べてらっしゃいます」
女中は笑いをこらえている。たぶん、関西の生まれではないのだろう。
節分の夜に、家族そろって、巻き寿司を、一本ずつ、無言で食べると、その年は無病息災で過ごせるという言い伝えに、私たちは従っている。年によって、方向が変わるのだが、今年は、たしか、北北西に向かって食べるはずである。
「おまえ、巻き寿司、食うたか」
私は原田にきいた。
「ぼく、寿司が苦手でして、マシュマロですましました」
「すました、て、えらい違いやないか。巻き寿司は、長いまま、食うのやぞ」
「知ってます。けど、恰好(かっこ)悪いものですよ、あれは」——


小林信彦の小説『唐獅子源氏物語』の一節である。

大阪の近郊都市にある、全国組織のヤクザの大親分の家に呼びつけられた主人公である傘下の組のボス「哲」の述懐で、子分の原田ともども関西人という設定である。どうであろうか、この小説が書かれた段階で、節分の夜に巻き寿司を丸のまま食べるという「風習」が、全国的には全く知られておらず、のみならず関西人の間でさえ奇異なものと見られていた、という前提でお笑いのネタになっているのがよくわかる。この小説の刊行は1982年。ちなみに小林信彦は東京・日本橋の生まれ、つまり生粋の江戸っ子である。



この後、記事は地元大阪でさえ根付かなかった『恵方巻』がなぜ今頃コンビニの参入で成功したかのように見えるのかを考察し、日本の食文化の風化を憂いている。



さて、以下は私的な戯言ですので、恵方巻の行事を大切にされていらっしゃる方には申し訳ございません。

この記事にあるように、小林信彦は唐獅子源氏の中で恵方巻(の食べ方)を
「恰好悪いものですよ、あれは」
と言わせている。
これを大真面目にやっている親分だから面白いのだ。
原田が「マシュマロですませた」というくらいだから、別に巻きずしなんかでなくてもいいんじゃないかと、作者も思っていたに違いない。


一方「ドジリーヌ姫の優雅な冒険」の一篇、『アボカドの街角』ではアボカド料理の詳細に、えらく熱が入っていたのを思い出す。
まだアボカドが今のように馴染みの食物ではなかった時代だった。
小林さんには珍しく(クロワッサン連載だったらしい)料理小説短編集の一篇だが、アボカドは当時作者にとってもまだ未知の食材であったと思う。
ドタバタ劇ではあったが『格好悪さ』とは無縁、いつかはこの緑色の気持ち悪いものを食べてみたい、と思わせるに十分な筆致だった。

アボカドは食材だが、恵方巻は食文化だ。

恵方巻をその年の方角に向かって、丸一本、多分立ったまま無言で食す。
唐獅子の任侠一家のごとく、人数が多ければ多いほど、奇異で笑えるかもしれない。

コンビニの「恵方巻のぼり」が珍しくなくなった昨今、大真面目にこれをやった年の自分たちの姿を思い出し、笑ってしまった。

今年は堂々と、節分に巻きずしを用意しない。
豆でもまけば、それでいいじゃないか。
例えスーパーの特売に負けて巻きずしになってしまったところで、きれいに切って食べることにすればいいじゃないか。



関連記事

Comments 4

ぢょん・でんばあ  
ウフフ…。

こんにちは。

きっと、お嫌いだと思ってました。

私もご同様です。

大阪船場生まれのうちの母(後期高齢者)は「あんなん、昔はなかったデ」と言っています。自分は家族に食べさせたくせに。

うちは今日、イワシの丸干しとカミナリ汁を食し、勝手口にヒイラギをつるし、大真面目に豆まきをします。

2015/02/03 (Tue) 12:17 | EDIT | REPLY |   
mikaidou  
Re: ウフフ…。

ぢょん・でんばあ様

> きっと、お嫌いだと思ってました。

大爆笑でした。
何にでも難癖つける本性バレバレでしたね。

> 私もご同様です。

ホッとしました。
関西近辺の方には失礼な話書いちゃったかなとドキドキしていたので。

> うちは今日、イワシの丸干しとカミナリ汁を食し、勝手口にヒイラギをつるし、大真面目に豆まきをします。

素晴らしい!
心づくしの「節分」ではございませんか!

「カミナリ汁」がどんなものか、ちょっとワクワクします。
うちの地方にはないので。

さて、私もこれから大豆を買いに、ひとっ走り行ってきます!

2015/02/03 (Tue) 17:26 | EDIT | REPLY |   
kei  
04

こんばんは。
こちらでは初めまして。

恵方巻が全国を席巻したのは、スーパーやコンビニの、いわゆる業界の策略、それがうまくハマったんだと思いますが、ハロウィンがこんなに一般化したのは業界よりも、変装(コスプレ)という遊びが日本人(若者以下)を魅了したからでしょうか。
いくなんでもハロウィンは日本に根付かないと思っていたのです。ところが、何か急に10月の行事になったような気がするんです。

2015/11/19 (Thu) 22:08 | EDIT | REPLY |   
mikaidou  
Re: Re: 04

keiさま

コメントありがとうございます。

ハロウィンは英会話教室などもひと役買って、
親子で楽しむ方々もいらっしゃいましたね。
でもやはり、おっしゃる通り「コスプレ」を楽しめることが決定打だったのでしょうね。

ここに載せた記事、恵方巻の話題に唐獅子源氏を持ってきた書き手がすごいですよね。
小林信彦の「批評する側」であり、「物書き」である両の視点が彼の小説を二重構造にしている気がしています。
鋭く笑いを取りながら、その笑いをも突き放す一瞬が、「イヒヒ」と私をオヨヨにするのです。

2015/11/20 (Fri) 18:39 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply