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身仕舞い

実家の母から、珍しく車を出してくれと電話があった。
古い友人が亡くなったという。
お通夜、お葬式共この寒い時期だ。
80を超えていれば体に堪えるので送り迎えが必要だった。

年々一人、また一人と親しい人が亡くなっていくのは寂しさと共に、恐怖もあるだろう。
母が気を落としていなければいいが、と思っていた。

・・・ところが、どうも様子が違う。
お通夜の日は、「久しぶりに友達が集まって話がはずんだから迎えはいらない」と言った。
そして葬儀が終わり、火葬場まで行った後も、なかなか連絡がない。

母の迎えは気が重かった。
どんな顔で帰るのだろう。
私が家まで送るとはいえ、一人暮らしの寂しい部屋に。

結局「迎えに来て」と連絡があったのは夜も8時を過ぎていた。
母が待っていたのはとあるホテルのロビーである。

彼女は上機嫌だった。
しょんぼりしているかもしれぬ母のために息子まで動員して迎えに行ったのに、ニコニコ顔である。
一体、何があったのよ。

曰く、「昨日も今日も、本当に楽しかったのよ」。

は?

あなたはお葬式に行ったはずでは?
大切な友人を亡くしたのでは?

聞けば、亡くなった母の友人は、生前細かく自分が亡くなった時のことをご家族と取り決めなさっていたらしい。
ひとつは、誰からもお香典を頂かないということ。
もうひとつは、参列の友人たちを皆、ホテルの美味しい食事でもてなすこと。

老衰で亡くなられたとはいえ、たった一人で旅立たれた孤独死だった。
それを見越して、すべては準備されていたそうだ。

母は悲しい気持ちを通り越して、感動していた。

会葬者は一部を除き、年金暮らし。
しかもほとんどが80歳を超えて、一人暮らしが多い。
病に臥せっていなくても身体のどこかに故障を抱え、ようやくぼちぼち歩く老女が集う葬儀である。

自分の葬儀に来てくれるであろう、友人知人への配慮をご自分の身仕舞いとされた。

タクシー代にと香典を受け取らず。
久しぶりに会うはずだからと会食は高齢者向きに整えられた素晴らしい食事だったそうだ。

皆で亡き友人の思い出を語らい、懐かしい話をし、お互いの近況を語り合い、ひと時、幸せな時間を過ごしたという。

「いいお葬式だった。最後にこんなにいい思い出を皆に残してくれて。こんな人を天晴と言うんだよ。」と母は言った。

もうすぐ自分たちも順に亡き友人の後を追う。
それまでもう時間は長く残されていないだろう。
だからこそ、亡き友人の心遣いが、身に染みて嬉しかったそうだ。

挙句、「自分の身仕舞いも考えなくちゃ」と言いだした。

まずは綺麗に白髪を染め、お化粧して、素敵な写真を撮るのだそうだ。





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Comments 4

sona  
凄い!

なんとまぁ素敵な人生の幕引きなんでしょう!

旅立った方はとても愛のある方ですね。

人の立場に立ってものを考えるって、なかなか出来ない事です。しかも人生の最後をそんな風になんて、とても出来ない事です。

人には必ず役割があり、なにかの為になるそうですが、旅立った後、笑顔の華を咲かせるなんて、その方は実は天使なのでは?

現在勤めているのは(2月で退職ですが)介護施設をいくつか運営している会社です。施設に入居されている方々を見ると、いくらお金があっても、身内がいても、幸せとは言い難い場合が多々あります。そして運営側も、口ではきれいな事を言いながら、社員に対して人を人とも思わない使い方です。そんな中、私を信用して下さる入居者さんと接したり、面会のご家族がお年寄りをいたわる心遣いを目にすると泣きたくなる時があります。

本来人の心はきれいであると信じたいです。

2015/01/12 (Mon) 00:06 | EDIT | REPLY |   
mikaidou  
Re: 凄い!

sonaさま

私も母の笑顔に心底驚きました。
死後なお、周囲に笑顔の魔法をかけて行って下さったその方に感謝したいと思います。

介護とは、本当に難しいものですよね。
家族も本人も一番しんどい部分を、介護スタッフの皆さんが引き受けて下さる。
これほどありがたいと思うことはありません。

祖母の最後の数か月は家族が交代で付き添ったのですが、介護スタッフの方々と、祖母の時折見せる笑顔にこちらが救われる思いでした。

2015/01/12 (Mon) 01:21 | EDIT | REPLY |   
青海  
嬉しい驚き

mikaidou様

初めまして。昨年からときどき、記事を
拝読しておりますが、今日はまた素敵な
お話で、コメントしたくなりました。

mikaidou様の母上とほぼ同年代の親が
おりますが、「お葬式」という悲しいはずの
出来事でも、考え方次第で他人を笑顔に
させることができるんだなぁ…と
はっとさせられました。お母様のご友人は、
金銭的な意味ではなく、内面的に、とても
豊かな人生を送られたのではないでしょうか。

2015/01/14 (Wed) 05:42 | EDIT | REPLY |   
mikaidou  
Re: 嬉しい驚き

青梅さま

コメントありがとうございます。

この方は趣味の分野で地元では著名な方でした。
プロと言っても良いのに、あくまでも趣味にとどめてはおられましたが、素晴らしい作品を作られる方でした。
自分をひけらかすことを良しとせず、表現世界を大切になさったとお聞きしています。

この後、母が「綺麗にお洒落して遺影を撮る」と言いだした時、切ないよりも先に嬉しかったのです。
私たち母子は長く確執を抱えていましたが、今では確実に「あとどの位か」を意識していると思います。
これまでの親子関係が良くなかっただけに、後悔はしたくないなと、思うようになりました。

綾小路きみまろ曰く、「安心してください!人間の死亡率は100%です!」

ならば、できることなら、笑顔で送りたいと思いますよね。


2015/01/14 (Wed) 08:57 | EDIT | REPLY |   

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