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誰かの靴を履いてみる〜「キンキーブーツ」

ローラのブーツの歩きにくさは
履いてみなけりゃわからない。

誰かの生きづらさなんて
その人の身になってみなけりゃわからないのだ。


今朝FOXで偶々観ていてグイグイ引っ張られ
気がつくと泣きながら夢中になっていた映画。

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「キンキーブーツ」

監督: ジュリアン・ジャロルド
衣装デザイン: サミー・シェルドン
撮影: アイジル・ブリルド
映画脚本: ジェフ・ディーン、 ティム・ファース
2005年 イギリス



日本でもミュージカルで舞台化されていましたね。
同タイトルのミュージカル映画も3月に公開されるようです。


父親の突然の死により、倒産寸前の靴工場を相続した優柔不断な青年チャーリー(ジョエル・エドガートン)。工場の起死回生に頭を悩ませる彼は、偶然出会ったドラッグクイーンのローラ(キウェテル・イジョフォー)からインスピレーションを得て、ドラッグクイーン用のセクシーなブーツを新商品として開発しようと思いつく。

シネマトゥデイより

細かいことだけど、どのサイトもローラについて「ドラッグクイーン」表記。
薬のドラッグと区別できるよう
日本では「ドラァグクイーン」と表記されることが多い。
薬はdrug。ここでの「ドラァグクイーン」はdrag(服の裾を引きずる)方です。

美男美女は出てこない。
派手な音楽もお涙頂戴なあざとい演出もない。
でもピタッと気持ちに張り付いてなかなか取れないストーリー。

ドラァグクイーン、ローラ役のキウェテル・イジョフォーの目がとてもいい。
倒産寸前の靴工場の跡取りチャーリー役、ジョエル・エドガートンのセリフの「間」がすごくいい。


「適応することが大事なの」‥でもできないから苦しんできた。

「欲しいものは変えられない」‥例え愛する人を裏切っても。

「(あなたが)軽蔑されるのを見たくなかったの」‥私は慣れてるわ。

セリフの外に流れる気持ちが手にとるようにわかる(気がする)。

印象的だったのが

工場にデザイナーとして(ローラの自称だけど)協力することになったローラと
彼女をオカマ野郎だと何かにつけて嫌がらせをするドン(そんなセリフは無いけどそう思ってるよね)、
この2人がパブで腕相撲対決するシーン。

ローラが譲れないものは多分、彼女の美しい爪。
ドンが譲れないのは腕相撲チャンピオンに象徴される男のプライド。

ローラが腕相撲の勝ちをドンに譲ったことはドンにしかわからない。
でもこれをきっかけにドンはローラへの態度を軟化させる。

それでも
分かり合えそうでどうしても越えられない、性的マイノリティーへの偏見。


そういえばブレイディみかこさんの「ワイルドサイドをほっつき歩け: ハマータウンのおっさんたち」には「パブ」の話が載っていたと思う。

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「ワイルドサイドをほっつき歩け」ブレイディみかこ/筑摩書房

ローラとドンの腕相撲対決の舞台は工場近くにあるパブ。
あちらで言う「パブ」はパブリック・ハウス(Public House)の略だとブレイディさんも書いていた。(多分この本だったと思う(^◇^;))
居酒屋の内輪な感じとは似て非なるものなんだなと「public」への意識について考えさせられた。

この場合「公」は日本のように「お上」を意味しない。
ローラがドンのプライドを思い遣ったのはドンにとってこの場所が気心の知れた行きつけでありながら「公の場」だったからなのだろう。



色んなぶつかり合いを越えて工場の皆でようやく作ったブーツ。
やる気のなかったお坊ちゃん跡継ぎが私財を投げ打ち勝負を賭けるミラノでのショー。

なのにミラノ行きの前日、恋人の裏切りに傷ついた工場主チャーリーは、ドレスでレストランにやって来たローラに酷い言葉を投げつけてしまう。

ローラはそれまで何度も何度も傷つけられ踏み躙られ
プライドなど粉々にされてきた。
でも誰よりも優しく強かったのは彼女だ。

ミラノのショーの本番前、チャーリーの言葉に傷ついたローラは姿を表さなかった。

モデルはローラ以外にはいない。
チャーリーはそこで初めてドラァグクイーン用の鋭いヒールのブーツを自ら履く。

ランウェイを上半身スーツのまま
ズボンだけ脱いだ憐れな姿で
真っ赤なニーハイブーツを履いたチャーリーが歩こうとする。

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高いヒール
しかもこのブーツができるまでは女性用のもっと不安定なヒールで
ローラ達はステージに立ち、お酒で痛みを誤魔化しながら踊って歌ってきたのだ。


「誰かの靴を履いてみる」

ローラのブーツの歩きにくさは
履いてみなけりゃわからないのだ。

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「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」ブレイディみかこ/新潮社

イギリスの中学校に通う息子の生活を描いてヒットしたブレイディみかこさんの本。
この中に、息子さんと家が貧しい同級生の話がある。
様々な家庭から学校に来る友人達の間で中学生が感じとったことは何か。

学校でこんなテスト問題が出た。

「エンパシーとは何か?」

「シンパシー」は他人への共感だが
「エンパシー」という言葉の意味を、息子さんは一言で言い表したという。

「自分で誰かの靴を履いてみること」


✳︎ エンパシーとは自分と違った立場の人々が何を考えているのだろうと想像する力のこと

「誰かの靴を履いてみる」
これは元々諺から来ているらしく
他人の靴を履くことで
その人の身になってみるという意味らしい。

この本に書かれていた言葉が
チャーリーがピンヒールのブーツを履いてランウェイで惨めに転んだ時
ふいに思い出されて胸に迫った。

クライマックス。

マスコミのカメラ、ファッション誌を飾る靴を生み出す業界人、有名人。

衆目の前で立ち上がれないチャーリーを踏み越えるように

仲間と共にローラが現れ、ショーが始まる。

実話を元にしたと言うけれど、このハイライトシーンは演出にしてもやっぱり胸がすく様で素晴らしい。


男のプライド(これは実に厄介)
譲れないもの
わかりあうこと

こういう映画を観ると

毎日がつまらない
なんて言ってられない。



音楽がまたいい。
私はこの曲が好き。


ドラマ「セックスアンドザシティー」でもこの曲が度々使われていた。
そういえば、キャリー・ブラッドショーがショーのゲストでモデルをすることになり、キャリーがこの映画と同じようにランウェイで派手に転んでしまう回があった。
シーズン4、第2話「The Real Me」。

ステージの上で無様に転んだままフェードアウトするか
恥ずかしくても立ち上がって歩くのか。

リアルな世界で
人は転んでも立ち上がり、
悲しくても歩いて行かなきゃならない。

その勇気をくれるのは紛れもない
非現実の世界なのだ。



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Comments 2

NIzi  

若いころ?友達に勧められて見ました。
よく覚えていないし、タイミングが合わなかった作品だったような気がするので、
今回のエントリーを読んで改めてまた鑑賞したくなりました。
ありがとう。

2021/02/05 (Fri) 12:26 | EDIT | REPLY |   
mikaidou
mikaidou  
Re: タイトルなし

Nlziさま

「タイミング」ってありますよね。
私もブレイディさんの本のことが無かったら、
全然違った見方をしたんだろうなと思います。

2021/02/05 (Fri) 19:55 | EDIT | REPLY |   

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