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スーツとメガネ

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「映画狂乱日記〜本音を申せば12」小林信彦/文藝春秋

この本の後半、「原節子という大きな星」というタイトルで
2015年9月に亡くなられた原節子さんへの
小林信彦流追悼の辞が述べられている。

この項が読みたくて本書を買った。
理由は映画「三本指の男」について何がしかの言及がないかと思ったからだ。
所謂Bであろう「三本指の男」があの週刊文春連載「本音を申せば」の俎上に載るなんて
あるわけないのだけれど。
それ以前に、この映画を観ていらっしゃる可能性の方が薄いか?

小林さんは江戸川乱歩の後押しで「ヒッチコックマガジン」の初代編集長になった伝説の持ち主。
私にとっては神様のような人だ。
あの原節子さんの・・・こんなレアものの探偵の助手なんて役柄についてもし言及することがあれば・・・
信彦的にはどうなの?というところを読んでみたかったのだ。


昨年AXNミステリで放送された「三本指の男」。
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スーツ姿の片岡千恵蔵さんが金田一耕助
隣の眼鏡っ子が原節子さん。


1947年(昭和22年)製作の日本映画で片岡千恵蔵、原節子が主演。
横溝正史の「本陣殺人事件」をベースに、GHQへの配慮などから原作とは随分かけ離れた雰囲気の「本陣」になった。

片岡千恵蔵がスーツ姿で初めて3次元の金田一耕助を演じ
全てにおいて「洋風」を意識したのかバタ臭さ満載のファッション、インテリア。
皆が洋楽に合わせダンスを踊るのに
あの「旧家」で起きる雪の日の殺人事件にはやはり無理矢理にでも「琴」が絡む。


映画「三本指の男」の冒頭、
岡山の旧家一柳家で行われる婚礼に招かれた金田一耕助は
列車で花嫁になる春子の友人、白木静子(原節子)に出会う。

あの美しい原節子さんが黒ぶちの丸眼鏡をかけている。

これが萌えポイントでなくて何だというのだろう。

なのに。
ユーモアのある演出がなされていないためか
「名探偵とその助手」である金田一と静子の関係が全く面白くなく
おかしなことに
原作とは違うミステリとしての結末よりも
この2人の関係性のつまらなさに
私の中では残念な映画となってしまった。

眼鏡をかけたお堅い静子が、スーツ姿の金田一耕助から
メガネを取ったほうが綺麗だよ、みたいな言葉をかけられ

まあ、帰りの列車ではメガネを外して見せる
静子さんの美しい顔がより一層輝いて見えるという
そういう映画だったのだが。


私にはこのスーツの探偵とメガネの助手が
エラリー・クイーンとニッキー・ポーターに思えて仕方なく。
なのにエラリーとニッキーの微笑ましい関係性が
金田一と静子にはついぞ生まれることがなかったという残念さに
正月が明けても何でなんだとモヤモヤしている。


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エラリー・クイーンの探偵小説にニッキー・ポーターが誕生したのは長編「生者と死者と」のラスト。
エラリーは「靴に住む老婆」の事件で出会った百万長者の赤毛の娘、シーラ・ポッツに新しい名前と生活を提案する。

私はエラリー・クイーンがこの魅力的な助手と一緒に小さな事件を片付けるミステリが大好きで
助手になったニッキーが、登場する話によってブロンドになったり鳶色の髪だったりするのがまた堪らなく好きだった。

事件の渦中にいた世間知らずの娘に
やり直すための改名と秘書として生きていけるようにタイプの習得を勧めるエラリー・クイーン。

上司と部下になろうとするこの2人の間には絶妙なバランスが保たれている。

ニッキーは名探偵で雇い主のエラリーに小生意気な軽口をたたき
エラリーはそれを可愛くて仕方ないといった風にやれやれとため息をつく。

例えば「完全犯罪」の中でエラリーはニッキーをこう描写する。

「彼女はくすんだブルーのドレスで、バカに魅力的だ。どう見ても女探偵とは思えない。どう見てもかわいい厄介ものといったところだ!」

「完全犯罪」エラリー・クイーンの事件簿2 /東京創元社 P290


ああ、かわいい色っぽさか。
原節子さんの静子にそれが無かったとは思わないし
ましてや片岡千恵蔵に色気がないとは誰が言えよう。

セクハラに見えないメガネを外したら〜のくだりを描くには
戦後すぐの時代はまだ早すぎたのだ。



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Comments 2

きと  

エラリークイーン好きです(^^)


映画は観ていませんが、戦後すぐのその時期に時代劇スターの片岡と既に人気女優だった原節子のロマンスは難しかったのではないでしょうか。
それにしても、片岡千恵蔵が金田一をやったことがあるのですね。へぇぇ・・・気になる・・・。

2021/01/10 (Sun) 00:25 | EDIT | REPLY |   
mikaidou
mikaidou  
Re: タイトルなし

きと様

エラリー、お坊ちゃんヘタレイケメン設定が素敵!
戦後すぐの大スター起用、初めての横溝作品映画化(多分)、ロマンスまでは無理ですよね〜(^_^)
昨年末、AXNミステリの横溝正史特集で、タイトルが違う昔の「犬神家」とか千恵蔵、池部良、高倉健の金田一耕助作品が放送されたんですよ。昔の役者さん達の佇まいが素晴らしくて、ミステリーとしては兎も角、良かったんですよ。

2021/01/10 (Sun) 09:56 | EDIT | REPLY |   

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