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お金本

『お金本』左右社

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1冊読むのに2日かかった。

読み応えがあるといえばある。

90名の文豪、アーティスト、作家、漫画家の金銭に纏わる書編が集められている。

出版は左右社。

最近の読書会でも紹介していた人がいたが、私の周辺でこの出版社の出す本は面白いと言う人は多い。

まず表紙、装丁がいいし、『はじめに』もいい。
本編を読みながら、『出典はいるよな』と思っていたら巻末に索引よろしくしっかり載っていた。
巻末付録も力作だ。

目次のタイトルがまた好きな人にはたまらないようにできている。

I 『俺たちに金はない!』
II 『お金vsプライド』
III『マネー、マネー、マネー』
Ⅳ『出版社お金物語』
Ⅴ『借金の作法』
Ⅵ『男と女と金』
Ⅶ『金と共に去りぬ』


文豪達のお金に纏わる書簡は本当に読むのがしんどい。

太宰治の昭和十一年の手紙なんてそれはもう怖い。
『生涯いちどの、生命がけのおねがひ』としたためて五十円(今の価値だとどれ位だろう)の借金を申し込んでいるのだが、文面が本気で怖い。

夏目漱石は文豪達の書簡のそこかしこに出てきて自身が貧乏だったかと思えば、大作家となってからだろう、書斎に剥き出しの大金を置いていたりする。

芥川龍之介の書簡。所謂プロポーズを手紙に書いて送ったわけだけれど、こんなストレートでキュートな手紙を貰ってしまったら、しかもてんで生活力も誠意も無い男に。どうするよ。

坂口安吾は‥‥はあ?と声が出た程、短い書簡でも下衆な感じで、でも面白い。

1番コイツ!とムッとしたのは女の子大好き川端康成大先生。お金の話からちょっとズレても敢えてそこは載せておこうという編集意図が楽しい。


文豪と言われる作家達が互いに生活の困窮を訴え合い助けたり助けられたり裏切ったり裏切られたり。
彼らの個人的な書簡で全集などに納められているものをこうして引っ張り出してみせるとは。
編者としては『誰を選ぶか、何を選ぶか』は腕の見せ所だと思う。

石ノ森章太郎や、つげ義春、魔夜峰央の漫画も載っているのがツボ。

読んだことがあったのは忌野清志郎の『ロックで独立する方法』くらいだと思う。
何がいいって、清志郎の有名な逸話が一緒に載せてあるところだ。
思い出しても可笑しかった。
忌野清志郎が高校3年生の時、お母さんが清志郎の将来を案じて新聞に身の上相談の手紙を送り、それに羽仁説子・進夫妻が答えているのだけれど、その記事が写真で載っている。
お金とは直接関係なさそうなのにこれを載せずにいられなかった編者に心から共感する。

小川未明はお金というより、窮しても文学ひとつで生きていくという表明だが、その短い決意文でさえ凛として美しい。

やなせたかしは、梯久美子さんが書いたものなど3冊程彼に関する本を読んだけれど、良いところを持って来たなと思う。やなせさんの話は確か来年度から小学校の教科書で紹介されるのではなかったか。それだけの価値はあるのではと思う。

意外だったのはポンちゃんこと山田詠美だ。
お金に纏わる話は彼女とは反りが合わないのか、珍しく笑えず面白くもなかった。

一方やはりと言うべきか、人はいつまでたっても変わらないらしく、私は宇野千代の言い回しを読むと今でもプチプチと心にサイダーの泡が立つような擽ったさと愉しさを覚える。
おかしな着物を着て、ウナギを食べたせいで1ヶ月も電車賃を払えずに職場に遠道を歩いて通い、なのに顔だけは『ぱっちりと牡丹の花のようにお化粧して』いる若き日の宇野千代さん。
ほんと、こんなにおかしな女がお婆さんになってもちっとも変わらず飄々としているのが痛快で、私はこの人のエッセイをよく読んでいた。


1番笑ったのが村田沙耶香の『算数苦手人間』。1億円が理屈では理解しても感覚的に把握できず、『それは1円玉にするとどれくらいの量なのかな?』と尋ねる。どうやら1億円は1円玉にすると小さめのバス2台分程になるらしい。

北野武の『関係の問題』は泣ける。この人の物事を見遣る目には弱いところを握り込まれるようだ。
『友情が金で買えないのは当たり前だ。何故かといえば、そんなものはハナっから存在しないからだ。』
こう言っておいてこの先わかりやすくいいこと言う。ずるいと思う。

で、この北野武の後が村上春樹の『貧乏はどこに行ったのか?』だ。
この並びをわざとやったのなら編集も意地が悪い。
ほんと、北野武の後に読むと余計、いかにもハルキくさくて恥ずかしい。
恥ずかしすぎて最後まで読めなかったのは90人もいる中でこの人だけだった。

佐野洋子の『死ぬ気まんまん』には言葉も出ない。
彼女は病の再発の告知を受けた日、病院の帰りに車屋に寄る。
そしてイングリッシュグリーンのジャガーを買うのだ。

皆お金のために働く。

私は、何のために働くのだろう。






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