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エヌ氏の幸福な家

時折開く朗読会のメンバーの1人、エヌ氏が結婚した。

エヌ氏はどっちかというとエリートである。
すこぶる見栄えが良い上に人柄の良さに育ちの良さまで相まって、周りにいるあらゆる男子の嫉妬、あらゆる女子の憧れを一身に浴び続けるうち、40を過ぎていた。

彼は若いうちから自分の身の上に不自由を感じていたのではないかと思う。
どこへ行っても皆の注目を集めずにはいられないからだ。

どうして彼のような男が結婚しないのかは人々の憶測を呼んだ。

私達の小さな朗読会でも、エヌ氏はいつも遠慮がちで静かだ。
どこで調達するのやら、美味しいスイーツと、素敵な本を手にやって来る。

プライベートな場で定期的に会っているのに、全くプライベートが謎なエヌ氏に想いを寄せる女子は多かった。

ということで、朗読会の主催者は、エヌ氏の新居に招かれた折に若者ではなく、私を連れて行くことにしたのだ。

エヌ氏を射止めた奥さんは、エヌ氏とお似合いの、口数少なく、穏やかな女性だった。

ごく平凡に見える彼女と、エヌ氏の間に流れる空気の初々しいこと。


そして、静かなこと。


エヌ氏はゆっくり築いた自分の家庭で、とても寛いで見えた。

奥さんと一緒にピザを焼き、コーヒーを淹れ、素敵な古民家を借りていながら特にそこに触れる事もなく、ウンウンと私達の話を聞いている。

エヌ氏の同僚女性が5歳の双子ちゃん連れで来ていたので、私は5歳児と歌ったり踊ったりして遊び、午後の時間はゆるりと過ぎた。

エヌ氏はようやく人々の憶測や嫉妬や羨望から解き放たれたのではないか。

帰りぎわ、玄関からいつまでも手を振って見送る2人に、こちらまで幸せな気分で歩いた。


お幸せに。





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