2017
07.17

『フラーの舞台袖』

Category: 映画の話
『ザ・ダンサー』

以下は映画の内容に踏み込んで好き勝手に書いておりますので、
未見でこれからご覧になられる方にはネタバレということをご承知おきください。

映画を観ながら、丁度先日読んでいた本の中の
「エトワール、または舞台の踊り子」の話を思い出した。

本というのは中野京子/著
『怖い絵』
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1878年に描かれたドガの踊り子の絵の本当の姿を、中野氏はこの本でこのように書いている。

「この少女が社会から軽蔑されながらも出世の階段をしゃにむに上がって、とにもかくにもここまできたということ。
彼女を金で買った男が、背後から当然のように見ているということ。
そしてそのような現実に深く関心を持たない画家が、全く批判精神のない、だが一幅の美しい絵に仕上げたということ。」
中野京子/著 「怖い絵」p⑳より



それが、怖い、と中野氏は書くのである。

19世紀後半のオペラ座は、オペラの舞台に自分の踊り子を立たせるために金と権力に物言わせるパトロンが舞台横の桟敷席を買った。
ステイタスだった。
ある種の社交場という性質を持っていたからで、現在の様に純粋に芸術を楽しむ場とは違っていたからだそうだ。

ドガの「踊り子」の視点は、その斜め上の桟敷席からの眺めなのである。

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ドガの踊り子はクラッシックバレエの踊り子で、当時パトロンなしでは中央で踊ることは叶わない一種の娼婦。


この画面左側に胸から下だけ見えている黒いタキシードの男。
これこそが劇場の支配人でもダンサーの一人でもない、パトロンの姿。

さて、映画「ザ・ダンサー」は、引用させて頂いたこの一節通りの状況に、まさに革命を起こしたモダンダンスの祖と言われるロイ・フラーを投じた、ヒリヒリと痛い、アーティストの物語だ。

主人公、ロイ・フラーを演じるソーコの熱情的なダンスシーン。
ダンス、というより舞台芸術と言った方が近いのではないだろうか。

ソーコが迫真の演技で、フラーの芸術を再現する。
圧倒的に美しい舞台芸術を、この時代に実現したとは。
息をのむようなシルクと光のショー。

フラーは新しく独創的な舞台芸術を、自分自身が考える斬新な照明と衣装で観客に見せた。
アメリカでの手痛い経験から、その手法に特許も獲得するのである。


ドガの絵の踊り子とフラーには大きな違いがいくつもあった。
それこそフラーが革命家、と評される所以であり、彼女を題材に映画を制作した理由でもあるだろう。

パトロンと踊り子としてのフラーの関係も通常とは違うように見えた。



映画の中で監督はフラーに言わせている。

「私のダンスは衣装だけ」

イサドラ・ダンカンの自由で自然なダンスを見た後、フラーはパトロンに涙を見せて身体の関係をも結ぶのである。
伯爵はあくまでも彼女がされたいように、優しく彼女を愛する。

謎に満ちた男、ギャスパー・ウリエル演じるルイ・ドルセー伯爵は、愛のない結婚をし、放蕩を尽くして死に場所を求めながらアヘンと女に溺れる男。

フラーをニューヨークで見出し、
カーテン生地では重くて思った動きができないと話したフラーに、
薄くて軽い絹と、オペラ座を目指す資金を(その与え方は普通ではなかったが)与えた。


フラーはやんわりと示唆される映像の中で、女性を愛する女だとわかる。
彼女はパトロンになかなか身体を許さず、それでも伯爵とは互いに身を寄せ合うように生きていた。
パトロンにお金を返し、自立したダンサーとして成功したようにも映画では描かれている。
内実は心身共に蝕まれた、激しい苦悩を癒し合うパートナーとして、2人はそこにいる。


オペラ座の舞台に立つにあたって、身体が限界に達していたフラーをそれでも舞台に立たせることができたのは、「パトロンの権力」だと示唆されている。

ドルセー伯爵は言う。

「ふつう、オペラ座の舞台に立つ踊り子は観客に頭を下げるものだ。
でも君は頭を下げない。」




舞台で倒れた彼女が、必死で降ろされた幕を上げ挨拶に立つ。
オペラ座の観客はスタンディングオベーションで応える。
その時、彼女は観客に向かってお辞儀をするのである。

媚ではない、観客と芸術家の間に湧き上がる感情の表現として。

こうして、オペラ座に立つ女性芸術家は、激しい苦悶の中から美しい蝶のごとく生まれ出でる。

(と、私には思えた。ってくらいのことですから、私見です。)



the dancer




モダンダンスの先駆者として19世紀末のヨーロッパで一世を風靡したロイ・フラーの物語を、ミュージシャンで女優のソーコ主演で映画化。

フラーのライバルとなるダンサーのイサドラ・ダンカン役で、ジョニー・デップとバネッサ・パラディの娘として知られるリリー=ローズ・デップが共演。

女性のダンスが卑しいとされた時代に、バレエの殿堂であるパリ・オペラ座で踊るという夢をかなえるためアメリカからフランスへと渡ってきたロイ・フラーが、ドレスや光、鏡などを用いて新たなダンスを創作し、自らの信念と夢のために奮闘する姿を描いた。

監督は、写真家としても活躍するステファニー・ディ・ジュースト。

映画.comより



ジョニデの娘、という冠を外した方がむしろ良かったのではないかと思えるほどの魅力で観る者を惹き付けるリリー・ローズが美しく、素晴らしかった。

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