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路面電車の休日



『袋小路の休日』

小林信彦の連作短編集。

乾いた、と評されるクールな文体で東京の人、街の変貌をスケッチしたかのように描く。

文字で残さなければ、という小林の意識がそこここに感じられる。
私小説に限りなく近い文学。

彼以外に誰がこの高度成長期の東京と、そこに生きる人々をこんな風に描けただろう。

彼の物事の捉え方、笑いのセンス、透徹する目。
全てが教科書だった。

芥川賞、直木賞に5度もノミネートされながら受賞を逃した。

山田詠美が直木賞を獲った時にもノミネートされていたというから驚きだ。

今これを読むと、解説とは違う見方になってしまう。
小林信彦はその時代には早すぎる才能だったと言うが、
同時にバブル期に咲くには遅すぎた文学、だったのではないか?

小林氏御本人が1番良く描けているとあとがきで述べた『路面電車』。

瞬く間に東京から路面電車が消えて行った頃。
最後に残った都電荒川線に娘を乗せてやろうと
主人公は家族で出かける。

ところが
荒川線の始発が早稲田からなのか、
早稲田のどの辺りに乗り場があるのかも心許ない。

結局早稲田から王子で一時下車、飛鳥山で子供を遊ばせる。

『東京からずいぶん離れてしまった気がする』

主人公にとって、当時の王子は東京ではなかった。
何しろ転居した先を三鷹辺りかと思って読んでいたら、杉並だと言うではないか。

この辺りがとても興味深い。

『街』でも環状7号線ができる前後の街の変わり様が描かれる。

ゴリオを連れて環七を通るバスで王子に向かい、飛鳥山で遊んでから都電で荒川まで足を伸ばしたことがあった。
クタクタになったあの日をふと思い出す。

小林信彦の描く世界に、自分との接点は一つもない筈だった。

まさか彼の小説で、時代もシチュエーションもこれ程違うにも関わらず、
何か郷愁めいたものを感じるとは思いもしなかった。

奇妙な感慨を胸に、『唐獅子』の世界へまた舞い戻ることにしよう。
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