2017
04.20

誰にも見えない

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「誰にも見えない」  藤谷治/著 小学館


「くやしいくやしいくやしい・・・・・・・・」が半ページほど続く。
これが物語の始まり。

中学2年生。14歳の日記風小説。

彼女は、エリート家系に苦労して嫁いだ母親の思惑と本人の努力の末、難関女子中学に合格。

これで後はエスカレーター式に進学・就職し、
上流家庭の子弟に嫁げば出来上がりだ。

14歳にして、彼女にはもう自分の前に敷かれたレールの先が見えてしまっている。

母親のように、なるのだ。

自分自身の目標、楽しみは表面のみの。
「良い暮らし」が絶対的な価値を持つ。
そして、心の空洞をどうしようもなく抱え込んだ孤独な。
そんな母親に。

少女の心象風景は砂漠のようだ。

鮮やかに彩られているはずの憧れの中学生活。
そこにあるのはうわべだけの友情。

確かめようのない浮遊感と、リアルな感覚のない世界。
何不自由のない世界に生きていることが、なぜこんなにも哀しい。

彼女はある日、電車に乗る。

学校をさぼって。

夢だったのか現だったのか、電車を降りた先で今まさに死出の旅に出ようとしている老人と出会う。
彼女は何故か一緒に「その場所」に歩く羽目に陥るのだが。

老人の背景などわかりはしないのに、小説世界で唯一リアルな現実と接点を持つのは彼だけだ。

少女の鎧を解く魔法でも使ったかのような老人の生き様。(死に様かもしれない。)

誰にも見えない老人。誰にも見えない少女の心の内。
帯に書いてある「やさしい奇跡」が果たして本当に優しかったのかどうかはわからない。

上手い人が、上手く書いた小説。
「やさしい奇跡」と帯に書かれてしまう時点で、ちょっと残念だったかも。

最近、向田邦子の短編にまたしても唸ったばかり。
何度読んでも、年を経るごとに鋭くえぐるように心に刺さる。
同じように「ある家族」を描いていても全く違うアプローチで時代も違う。
比べようもないのは当然なのだが。

藤谷治が青少年向けに書いた本、なのだろうけれど。
本の文体というものは、魂と同じだと感じてしまう。

藤谷治は自分自身のフィールドを描く方が、私は好きだな。
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