2016
12.24

「絵と言葉で語る」―アリスの同類

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本当は全日本の後にゆっくり書くはずだったが、
今夜の試合を思うと落ち着いていられないので、先に書いてしまおう。
但し、私の中で不消化、不勉強なままなので、この記事は随時更新となっていくかもしれない。

今年読んだ中で、一番面白かった本。

この本一冊の価値は、諸々の本をもっと読みこまなくては私などには理解できないだろう。
豚に真珠と言いたくなるほど、私には珠玉の本だった。

鳥獣戯画などの絵巻物を、「十二世紀のアニメーション」として紐解いていく、あのジブリの高畑勲氏による著書である。



「十二世紀のアニメーション―国宝絵巻物に見る映画的・アニメ的なるもの」高畑勲/著
徳間書店



「紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている」 
佐々 涼子 (著) 早川書房
この本で日本の製紙技術と職人魂に、いたく感動を覚えたのだが、まさに日本の「製紙技術」はこれまでも繋がれ、これからも繋ぎ続けていかなければならない「技(わざ)」なのだと思う。

さてこの「紙」の技術の上に、何故日本人がこうもアニメーションの世界で、世界でも稀に見る「大国」となったのか。


高畑監督という、アニメーション映画の監督にしか描き得なかった絵巻物の解説本。
傑作だと私は思っている。
「マンガやアニメ」との歴史的つながりから更に踏み込んだ「カメラのアングル」で語る内容は、二次元世界を三次元に引き上げるかのようなものだ。

冒頭で高畑氏は、「なぜ日本でマンガやアニメが盛んなのか、その根本にひそんでいる最大の要因」を外国で説明するならば、『鳥獣人物戯画』や『信貴山縁起絵巻』、『伴大納言絵詞』を見せる方がずっと早道だと書いている。

しかもこれらは850年近く以前に書かれたもの。
これら連続式絵巻が、アニメ的、マンガ的であり、いかにカメラを用いずして、同様の効果を上げているか、人々や動物の姿態や表情をマンガっぽい「線」で捉えているか、速度感をあらわす「流線」や、現在のマンガやアニメを思わせる表現が当時すでに用いられていたかを、著者は絵巻物の画面に往復する物語の流れを読み解きながらわかりやすく解説してくれるのだ。

「ドラマが繰りひろげられる」という言い回しも元をたどれば絵巻物に行きつき、浮世絵や草双紙にを劇画的映画的表現がすでに含まれていることなど、当たり前のように読んできたマンガ、アニメの世界が実に奥深く、ある種の「日本人論」と言ってもよいほど的確に述べられている。

日本のマンガやアニメを定義づけ(これは読んで頂いた方が楽しい)、それらが突然出てきた文化現象ではなく、長い伝統に位置付けられるものであること、それを絵巻物のページに現代の映画の手法を見出しながら「繰り広げて」いく。
こんなに難解なようでワクワクする本にはそうそうお目にかかれないと思う。

日本人は漢字を、(言語とは違う部分だと私は理解したのだが)仮名とは違う脳の別の部分に蓄えているらしい。
漢字を視覚的イメージとして、つまり殆ど「絵」として捉えているという話には頷かざるを得ない。

この本の「はじめに」を読むと、高畑氏自身がこの本を読む私たち同様、絵巻物と映画的・アニメ的表現の類似性を指摘した論評を、ときめきを持って読んでこられたと記してある。
何故「鳥獣戯画」なのかも、ここを読むとわかるようになっている。
画面における構図の重要性が見るものに伝わる。

絵巻物は、その見方によってカメラが移動し、パンした時と同じように見え、移動の速さも視野の広さも自在に変えることができる。
実に不思議なカメラワークが一枚の紙の上に連綿と広がっていくわけなのだ。

どのような頭の構造をしていれば、このような絵物語を描き得たのか、想像もつかない。
絵巻の絵の流れに沿ってひとつひとつを丹念に読み解いていく、著者の眼のその繊細さに驚く。

移動撮影、パン、水平アングルなどなど、著者の解説によって、
「昔の貴重な絵巻」が、俄然生き生きとした映像に見えてくるのだから不思議だ。

十二世紀の京都の絵師たちが、中国伝来の表現法を学びながら「絵画に時間軸を導入し」、ついに「時間的視覚芸術」を産み出したと結論に持っていくまでの目から鱗の数々。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG02H3P_S6A001C1CR8000/

鳥獣戯画、絵順入れ替わる? はけ跡から判明
日本経済新聞 2016/10/2 22:01

 京都市の高山寺に伝わる国宝絵巻「鳥獣人物戯画」(平安~鎌倉時代、甲乙丙丁の4巻)の甲巻について、絵順の入れ替わりが和紙に付いたはけ跡から裏付けられたことが、2日分かった。このほど出版された修理報告書「鳥獣戯画 修理から見えてきた世界」(京都国立博物館編)で明らかにされた。


 従来、絵に連続性がない箇所があることから入れ替わりは指摘されていたが、和紙の調査でも確認され、よく分かっていない制作当初の姿を知る手掛かりとなりそうだ。
nikkeic.png



秋に話題になった日経の記事を読み返してみた。

製紙工程ではけを使って和紙をなでた際に付いた筋の跡がつながることが判明。



この記事は2016年10月のもの。

高畑氏の著書の初版は1999年。
私の手元にある本は2015年の五刷。

けれど134ページでは日経の記事の「新たに連続する場面とわかった」はずの、23紙に続いてそのまま11紙がすでに続きで掲載されている。
記事によれば2009年の修復時からすでに想定されていたことが、2016年に証明されたということかもしれないが、それ以前から研究者の間では通説となっていたのか。

高畑氏の134ページの記述にも、23紙から11紙の間に

「復元でつながったサルの僧へ鹿が届けられる場面はすっかり俯瞰となるが」

とある。

これが近年訂正されたものでないとすれば、当時から相当な研鑽を積まれて書かれた本かと思われるが、出版当時はどのように見られていたのか興味深い。

この記事タイトルの「アリスの同類」とはいかなるものなのか、読んでのお楽しみである。
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コメント
速攻、図書館で予約しました!

少し前、奈良国立博物館で
「信貴山縁起絵巻」の展示があって
NHK大阪の特集番組を観たんですが
すごく楽しくて本当に「アニメだ!」と思いました。

記事タイトルとのつながりも楽しみです♡

北の富士さんの本と一緒にお正月に読みます(笑)
chocoaccodot 2016.12.24 22:05 | 編集
chocoaccoさま

このタイトルにコメント頂けるなんて、
感激です(≧◇≦)

> 少し前、奈良国立博物館で
> 「信貴山縁起絵巻」の展示があって
> NHK大阪の特集番組を観たんですが
> すごく楽しくて本当に「アニメだ!」と思いました。


この本でも最初に取り上げられているのが「信貴山縁起絵巻」で、
「あまりにも映画的」と紹介されているんです。
NHK大阪、良い番組作るんですね。
絵がイキイキしていて、身体の線の確かさにもびっくりしました。

> 北の富士さんの本と一緒にお正月に読みます(笑)

ブログでもその本紹介してくださーい!
相撲といえば、永谷園のお茶漬けカードを、ゴリオがせっせと集めています。
遠藤と一緒にモリモリお茶漬け食ってますwww
mikaidoudot 2016.12.24 22:42 | 編集
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