2016
09.28

遠足

Category: 日常のこと
今春職場をリタイアされた大先輩は、人間的な魅力も大先輩なお方だ。

彼女と初めて話をしたのは、仕事の依頼の件ではなかっただろうか。
いまだに同僚から、「あの話にはびっくりしたわー」と言われる無茶ぶりを彼女から課せられた私は、
そのおかげで自分の奥に眠っていた「願望」や「欲求」に気が付くことになった。
生まれて初めて、仕事をしていて腹の底から愉しかった。

そんな大先輩を囲んで、様々な催しものが行われる。
私も末席に呼んでいただける身となった。

さて、そのお方がある日、「一目惚れの末に、買っちゃった」と告白した。

「・・・何をでしょうか?」

「築140年の町屋よ💛」

「・・・・・・・・は?」

古い町屋の保存のため、そして一目で惚れ込んでしまった以上、万難を排し買ってしまった、というのである。
家を一軒。

現在も素敵なお宅にお住まいなので、その別宅をどうしようかと、思案中でいらっしゃる。

そこで皆でその「一目惚れの相手」を見学に行くことになった。

大人の遠足である。

男子2名、女子5名の年齢不肖軍団が、
町屋見学に、遠出と相成った。

格子戸の玄関を入ると、台所に通じる広く長い土間。
全てが昔のまま、引き戸の木の色は栗の実のようにつやつやと深い。
右手には大きな石を使った上がり框。
そこに3帖の小部屋があって、奥には床の間のある広い畳が広がっている。
手の込んだ欄間からは、内庭の陽が差し込み、異空間に紛れ込んだようだ。

床の根太も脆く危うい状態なのか、踏んだ畳が、ぼよん、と沈み込む。
お風呂はトトロの家のよう。
漆喰の壁はこっくりと甘いバニラの色。

不思議な場所に、はめ込みガラスが入っていたであろう跡。
今はベニヤ板が打ち付けてあるが、板を外してガラスに戻せば、きっと素敵な明り取りのアクセントになる。
広くつながる廊下の窓も、全て木枠のガラス窓。

長く風雪に耐え、よくぞ今もその形を保っているものだと感慨深い。

私も子供の頃、こんな古い造りの家に住んでいた。

土間や廊下が遊び場だった。
陽の当たる2階の廊下は夏も冬も心地よく、そこでどれほどの時間を過ごしただろう。

懐かしい思いで一杯になりながら、
急な階段を上る。

2階に上がると、そこには木目が怪しい雰囲気を醸す天井が。
寝る時にこんな天井を見上げると、木の模様が色々なモノに見えるのだ。
物入れスペースも小ぢんまりと、全て、昔のまま。

腰かけて外を眺めることのできる窓辺。
頭の中は小説か映画の世界に飛んで行き、
そこに住んでいる自分を頭の中に勝手に描いていた。

天井の電灯用ソケットは映画にでも出てきそうな昔の丸いもの。

光と影のコントラストを、こんなにも美しいと思ったことはなかった。

この町屋を、建て替えをせずに手を入れて残すと、
決心された先輩が誇らしい。





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